第1回場を生むデザイン賞「奨励賞」を受賞されたコミュニティースペースハッピーの片岡さんにお話を伺ってきました。

コミュニティースペースハッピーのはじまり

比賣久波神社の鳥居
リビングから見た「島の山古墳」

奈良盆地の中央部にある人口約8200人の小さなまち川西町。その川西町で最も早く開拓され、集落としても歴史があるとされている唐院地区にコミュニティースペースハッピーは存在します。コミュニティースペースハッピーの一番の特徴は池のほとりに建っていること。池といっても4世紀末ごろに築造された巨大前方後円墳「島の山古墳」の周濠です。この周濠に面してリビング的な空間が用意されていますが、そこからの眺望は最高です。 コミュニティースペースハッピーを運営されている片岡昌敏さんは川西町生まれ、川西町育ちの45歳。中学時代は子供たちとのキャンプでリーダーを務めたり、大人になってからも青年団として祭りを運営したりと、とにかく楽しいことがお好きとのこと。そんな片岡さんに『地域のつながりの場をつくりたい』という思いが芽生えた時から、コミュニティースペースハッピーははじまりました。

コミュニティースペースハッピー周辺の航空写真

地域とともに

長年放置されていた空き家を個人で購入しDIYを計画。DIYは「かわにしハッピープロジェクト」と称して、口コミやSNSでメンバーを集め、地域の方々と一緒に実施したようです。「地域の方々に受け入れてもらうことが大切」と考える片岡さんはコミュニティースペースを生み出すプロセスから地域の方々に関わってもらうことによって、空き家がどのように変貌していくかも一緒に味わえるように工夫されたようです。DIY中も餅つきイベントを開催するなど楽しいことが好きな片岡さんらしい企画です。そんな素敵なDIYから生まれたコミュニティースペースハッピーですが、オープンがコロナ禍と重なってしまい、当初の計画通りにはなっていないようです。しかしそんな状況ですら「コロナ禍で細々と活動することによって、無理なく地域に溶け込むことができた。逆にこれが良かったと思っている。」と前向きに捉えられています。というのも、SNS等でコミュニティースペースを大々的にアピールし、物珍しさで予想以上に多くの人が集まってしまうと、地域の方々はその急な変化に戸惑いを感じてしまいます。地域の人々のために生み出したものをそのように展開しては意味がないということで地に足を付けている今の状況に満足されています。

コミュニティースペースハッピー

コミュニティースペースハッピーの活動

コミュニティースペースハッピーでの利用方法を少し紹介します。

「チャレンジカフェ」

「マルシェ」

「集会所」

「森のねんどバー」

「スナック古墳」

「島の山古墳活用研究会」

「島の山古墳フェス」

「行政相談」

「ゲーム大会」 等々。

イベントをするたびにいろいろな方々と出会えることに喜びを感じておられるようです。最近ではトゥクトゥクを購入されたようで(納車はまだ)イベント時はこのトゥクトゥクで駅からの送迎も計画されているようです。その他、地域のこどもたちが喜びそうな企画をお話しいただきましたが、それは今後のお楽しみです。

島の山古墳フェスの様子

片岡昌敏さんのマインド

コミュニティースペースハッピーオーナーの片岡さん

片岡さんは自分が楽しいと思えることを出来る範囲で少しずつやっておられるようです。「楽しんでいる人のところに人は自然と集まる。」「やりたいことをやっていると自然と必要な人と繋がっていく。」「こうしないといけないみたいなことを決めつけないようにしている。」と語って頂きました。やりたいことをじっくり永くやっていくには、この片岡さんのスタンスを見習っていきたいものです。そして「場の力」にはやはり「楽しむ力」や「人とのつながりの力」が密接に関わっていることを実感できました。

出会いと記憶の継承

コミュニティースペースハッピーのサイン

この空き家は元々美容室だったようで、美容室の名前がハッピーだったことから、名前も受け継ぎコミュニティースペースハッピーとされたようです。内部空間にも美容室の要素をところどころに残されています。人々にとって美容室での一コマはなにげない日常の一部にすぎませんが、久々に唐院に戻ってこられた方が、美容室ハッピーの変化を目にし、そこに残されている美容室時代の面影が記憶を呼び覚ますきっかけになるかもしれません。

また唐院はもともと川西町の中心的なエリアで映画館があったり、料亭があったりと賑わっていたそうです。今では年配の方々が中心のまちで、ひっそりとしているようにも見えます。しかし当時のように戻らなくとも、コミュニティースペースハッピーでの新しい賑わいが素敵な出会いと記憶を受け継いでいくはずです。何が残って、何が消えていくのか・・・もその地域の人たちの個性に委ねられているかもしれません。

唐院の様子

巽浩典/デザイン賞部会