奈良県建築士会にて、永年、実施してきた奈良県景観デザイン賞であるが、前回より、装いも新たに『場を生むデザイン賞』として、『場』という視点を明確にしたコンペティションを行った。今回2回目の『場を生むデザイン賞』として、前回と同様のコンセプトにて作品を募ったところ、大変魅力的な30件の応募があった。

以下、応募案について、審査報告をする上で、建築を対象としていた時と同じく、しばしば「作品」と呼ぶことをお許し願いたい。また、審査会においては、応募作品における人々の活動や地域的社会的背景について、審査委員全員で様々な議論を交わした上で入賞作品が選出されている。

第一次審査は2月27日、奈良県経済倶楽部にて行った。応募作品の傾向や選定趣旨などについて協議した後、30の応募作品に対して、4人の審査委員が持ち点10の重み付けが可能な投票形式で投票した。結果を見ながら議論した結果、9作品の現地訪問を実施することとなった。日程的にはかなり厳しい数であるが、現地を訪問することが重要であろうということで委員全体の意見も一致した。現地訪問するには至らなかったが、審査委員のいずれかが1点以上入れた作品は上記の9作品以外に7作品であった。

第二次審査は3月8日朝、大和西大寺駅を出発して現地を巡った後、夕刻奈良県社会福祉総合センターにて最終審査会を行った。視察の結果を議論した後、9作品に対して持ち点6で投票し、さらに討論を経て以下の入選作品を決定した。

・最優秀賞(知事賞) 明日香スタンド

・優秀賞  GOSE SENTO HOTEL                   

・優秀賞 花ちゃんのおうちごはん

・奨励賞 手ぶらで集まれる101畳のひみつきち「toi」

・奨励賞 廃墟映画館 東川(うのかわ)ノイマ

 ・奨励賞 公設フリースクール 「HOP あやめ池」

なお、現地審査を行ったが、最終選抜に至らなかった作品は以下の通りである

maru room(マルルーム) / bird bird / 梅乃宿酒造(株)本社工場

最優秀賞(知事賞) 「明日香スタンド」は、明日香村に古くから建つ米屋の屋敷跡全体を、村人や来訪者へ開かれ、村の魅力や場所の歴史性を通して感じることができる場所として、再活用されることとなったものである。当作品は、地元の商工会・近隣に住む有志の林業家・事業者・大学生など、様々な立場の人々が関わっているが、計画当初からプレスリリースを継続的に作成するなど、相互の意思疎通がうまく取れているように見受けられ、『場』を作るチームの在り方として理想的である。特に、地元の商工会が、通年で営業し続ける施設を立ち上げ実現させたことは、全国の商工会を勇気づけることとなり、おおいに評価できる。当作品自体も当時の面影を残しながら、新たな機能が整備されたバランス良い魅力的な空間としているが、今後も、アプローチを整備することなどにより、より周辺地域とのつながりが期待される。

優秀賞 「GOSE SENTO HOTEL」は、2008年に廃業した銭湯の再生を中心に、御所まちエリアに計4棟の古民家物件を活用した「泊・食・湯」分離の分散型ホテルである。既存建物のリノベーションによる町おこしの事例は全国で見受けられるが、その中心にまちの銭湯があることにより、対象者に地域住民がいて、その上で外部からの来訪者を受け入れる場となっていることが特徴的である。また、行政も関わりながら、4棟の施設の距離感を適度に埋めていっておられることも、御所全体のまちづくりという観点から評価できる。

優秀賞 「花ちゃんのおうちごはん」は、一人暮らしの高齢者が多い団地の中にある、地域の人たちがくつろぎながら会話とごはんを楽しむことができる食堂であり、50代の女性店主が一人で切り盛りしている。団地の再生は日本全国共通の課題である。この作品は食堂ではなく「団地の食卓」と謳われている通り、店主にとって、団地を一所帯と見立てた新しい家族の在り方にたいする提案と捉えると非常に魅力的な事例である。

奨励賞 「手ぶらで集まれる101畳のひみつきち「toi」は、南の庭の向こう側に田園が広がる築50年の2階建て民家であり、民家の家主が建物の大部分及び庭を10代、20代の若者に開放している。この『場』で過ごした若者がその経験をきっかけとして、新たなコミュニティーを広げる可能性を示している「住み開き」の好例である。

奨励賞 「廃墟映画館 東川(うのかわ)ノイマ」は、元割り箸工場を廃墟という価値を残したまま、集いの場「映画館」として活用することにより、地域内コミュニティーの維持にチャレンジしている。近年、民家を再利用する着想は得やすくなっているが、本作品は廃棄物の気の利いた利活用も含め、半屋外空間の活用のありかたの一例を示している。

奨励賞 「公設フリースクール 「HOP あやめ池」」は、旧幼稚園をリノベーションした不登校児童生徒の支援を行う教育センターである。ややもすると無機質な空間となりがちな教育施設において、廃校となった学校で使用されていた備品を用いたデザインやアイデアが随所に見受けられ、子供たちに色々な表現をしたいと思わせるような空間となっている。

結びに、未来に向けて多くの課題に直面している我が国において、今回の受賞作品はもちろんのこと、その他の応募作品も含め、それぞれの立場から地域コミュニティーを再建しようとする意志を感じることができた。各地域でのこのような活動が点から線へ、さらには線から面と広がっていくよう『場を生むデザイン賞』がその一助となれば幸いである。