第1回場を生むデザイン賞「優秀賞」を受賞された三宅町交流まちづくりセンターMiiMo(みいも)の森田浩司三宅町長とジオ-グラフィック・デザイン・ラボ前田茂樹さんにお話を伺ってきました。

(写真左)ジオ-グラフィック・デザイン・ラボ前田茂樹氏
(写真右)森田浩司三宅町長

まちづくりに対する想い

奈良盆地の中央部にある人口約6600人の三宅町。奈良県内で最も小さな市町村であり、全国的にみても2番目に小さなまち。三宅町役場や文化ホールなどの行政施設の集まるエリアに三宅町交流まちづくりセンターMiiMoが誕生しました。このエリアに小学校、こども園、保険福祉施設、商工会などまちを構成する主要な施設がコンパクトに集まり、小さなまちの特色をうまく活用されています。そんな三宅町の森田浩司町長は「自分の住んでいるまちを面白くしたい」と語られています。まちづくりは行政が中心となってするものなのか?そのような問いかけもされています。住民の方々が面白いと思うことを自由に楽しんで行う。それらが集まってつながっていくことが「まちづくり」ではないか。行政の仕事はそのつながりをつくり出すこと、そして住民の方々の夢に伴走することだと考えておられます。

話し合いに時間を掛けよう

三宅町交流まちづくりセンターMiiMoのプロジェクトは(平成29年度)基本構想、(平成30年度)基本計画、(平成31年度)基本設計・実施設計、運営企画支援業務スタート、(令和2年度)建設工事、複合施設プロジェクトチーム発足、施設運営計画策定(令和3年度)中央公民館解体・外構工事と足かけ5年におよぶ長い歳月を掛けて実現されました。スタートは学童保育施設として活用していたつながり総合センターが老朽化・耐震不足により閉鎖、その後、学童保育の機能を三宅小学校内の空き教室に仮移転。そのような中、自分の子どものために一刻も早く充実した学童保育施設を設けてほしいという住民からの意見もあったようです。しかし「刹那的に決めることではない。話し合いに時間を掛けよう。そして未来の住民が面白いと思える拠点づくりを行おう。」と住民とのコミュニケーションを深めていくプロセスを選択されました。町民タウンミーティングやまちづくりトークと並行して、子育て世代の生の声を聞くために、役場の職員が自治会、保育所、PTA集会、商工会青年部の集会に出向きました。住民との意見交換の中では、住民同士でも反対の意見が出ていたようですが、当事者同士がそれに直面することで、しだいに、お互いの意見を尊重し合う関係性が芽生えていったようです。これらの体験は「対話でつくることの大切さ」を再認識するものであり、みんなでつくって、建物が出来上がる前からファンを増やそうという森田町長の想いにもつながったようです。 このような活動を経て「子どもから大人まで共に学べる生涯学習の場」、「地域で子どもを育てる子育て支援の場」、「町民が笑顔で交流できるふれあいの場」、そしてこれらが一つになった拠点づくりが必要と考えるに至ったようです。住民との意見交換の中では「町内に公園はあるけれど、大人の目が行き届く公園はない。」「安心してこどもが遊べる空間がほしい。」「ランチを食べるところがない。」「シェアキッチンを設けよう。」など住民の想いややりたいことを必要要素として取り上げ、基本計画をまとめ上げたようです。

MiiMoの基本設計・実施設計のプロポーザルを経て設計者に指名されたジオ-グラフィック・デザイン・ラボの代表前田茂樹さんは、通常は〇〇室△△㎡と無機的な与件が与えられることが多い中、「〇〇室は□□□のように使いたい」というところまで与件が整理されていることに他とのプロジェクトとの違いを感じたようです。前田さんは住宅から公共施設まで幅広く手掛けており、常に建物が完成した後のことをイメージしながらデザインされているようです。不特定多数の公共施設の設計においても、利用者が固定されている住宅設計と同様に関係者と「対話」を深めることで答えを見出せると考えておられます。話し合いを重要視されたプロジェクトに然るべき設計者が選定されていると感じました。建築設計がスタートしてからは図面や模型・パースを利用して住民の方々とコミュニケーションを行ったようです。基本計画はカタチの分かりづらい議論であったが、模型やパースを利用すると一気に議論の温度感が変わり鮮明になっていったと当時を振り返っておられます。また設計ミーティングと並行して運営ミーティングも進められ、すべての建築スペックにおいて運営方法の裏付けを取っていくという手法はとても良かったと感じておられます。計画を見直す過程において、MiiMoの最も特徴的な造形となっている大屋根と大階段について一度も取り止めようという意見が出なかったことに設計者としての喜びを感じているようです。行政や住民側も「大屋根や大階段がなければMiiMoらしくない。」という共通認識があったことはプロジェクトに携わる人々のコミュニケーションの深さを感じます。 今回のプロジェクトで町長の役割として最も大切にしたことは「決断と説明」だとお話し頂きました。設計者の前田さんも設計フェーズにおいてとにかく決断が早かったと実感されています。首長が決断するためには役所担当者の考えや想いが必ず必要です。ここにも住民と役所担当者とのコミュニケーションの深さが隠されているように感じました。

MiiMoでの出来事

MiiMoのもうひとつの特徴は役場、文化ホール、MiiMoに囲まれた芝生広場があることです。この広場には多くの人々が集まり、昼寝をしたり、ランチを楽しんだり、ヨガイベントを行ったりと多目的に利用されています。MiiMoはこの広場に面して凹凸が設けられており、そこに腰を下ろして広場を眺められるような工夫が組み込まれています。役場に隣接して、子どもが利用できる施設が誕生したことで、役場に届く音に変化が生まれたそうです。夕方になると、自然と子ども達が集まり、にぎやかな声が役場を包み込むそうです。淡白になりがちな行政施設に元気を与える子ども達の光景はそれだけでも十分に価値のあることだと言えます。また雨の日には大屋根に守られた大階段で雨宿りする子ども達もいるようです。天候の変化だけで人が集まる光景は何とも言えない良いものです。 MiiMoにはこの他にも多くの居方が用意されています。例えば、本を読むという単純な行為においても、「図書室を利用する」「自習室を利用する」「テラスを利用する」「広場を利用する」など自ら居方を選択できるようになっています。自分のおうちのように施設を利用できるスタイルは使いながら発展していきそうです。

予想外の出来事として多くの中学生や高校生、大学生がMiiMoを利用してくれているようです。勉強する場がないということで三宅町の住民だけでなく隣接するまちからも来てくれているそうです。子ども達やそのお母さん、お父さんの世代、おばあちゃんやおじいちゃんの世代、コミュニティルームを利用する若い世代に加えて中学生、高校生、大学生が集まることで全世代が集まるという他に類を見ない施設となりつつあります。

今後のMiiMoは

「住民の方々が面白いと思うことを自由に楽しんで行う」ということを掲げ、実際にそれが少しずつ実現されています。

MiiMoが目指しているのは、そこから横のつながりをつくっていくこと。そのために地域プロジェクトマネージャーを採用し、MiiMoでの活動を通じて、夢を実現させる伴走の役割を強化していこうと計画されています。MiiMoがきっかけとなり「三宅町を好きになってもらいたい」「三宅町に遊びに来てもらいたい」「三宅町で住んでもらいたい」「三宅町で何かを実現してもらいたい」と考えておられます。そして、「自分らしくハッピーにスモール(住もうる)タウン」というビジョンの実現を目指し、これからも改革を推し進めていかれるようです。

巽浩典/デザイン賞部会