今年から「奈良景観デザイン賞」は『場を生むデザイン賞』として大きく生まれ変わり、『場』という視点を明確にすることとなった。応募者も戸惑うのではと心配されたが、運営担当者の的確な配慮が功を奏して、大変魅力的な40の応募案が集まり今後が期待できるスタートとなった。

以下、審査報告をする上でこれらの応募案を、建築を対象としていた時と同じく、しばしば「作品」と呼ぶことをお許し願いたい。またこの審査報は、筆者が建築設計専門であるために『場』を評するにしては偏りがあることも申し上げておきたい。実際の審査会においては、応募作品における人々の活動や地域的社会的背景について、審査委員全員で様々な議論の中から入賞作品が選出されている。

第一次審査は3月2日、奈良県文化会館で行った。応募作品の傾向や選定趣旨などを話し合った後、40の応募作品に対して、5人の審査委員が持ち点10の、重み付けが可能な投票形式で投票した。結果を見ながら議論し、得点8〜3の9作品すべてを現地訪問することにした。日程的にはかなり厳しい数であるが、現地を訪問することが重要であろうということで委員全体の意見も一致した。2点以下は7作品。つまり誰かが1点以上入れた作品は40のうち16作品であった。審査委員の専門性のばらつき、持ち点が多いことを考慮すると、かなり絞られた数だと思う。

第二次審査は3月11日、朝大和八木駅を出発して現地を巡った後、夕刻天理市文化会館にて最終審査会を行った。視察の結果を議論した後、9作品に対して持ち点5で投票し、さらに討論を経て以下の入選作品を決定した。

最優秀賞:森のねんど研究所

優秀賞:ゲストハウス三奇楼・三奇楼デッキの下                           

優秀賞:三宅町交流まちづくりセンターMiiMo

奨励賞:コミュニティースペースハッピー

奨励賞:奈良カエデの郷ひらら

奨励賞:doors yamazoe

現地審査を行ったが、最終選抜に至らなかった作品は以下の通りである

 交流拠点施設 ワニナル / 旧芝居小屋 喜楽座 / 天理駅前広場 コフフン

最優秀賞(知事賞) 「森のねんど研究所」は、老朽化が進んでいた民家の解体を依頼された工務店が、その文化的価値を感じて再生の可能性を模索し、再活用されることとなったものである。SDGsの時代にふさわしい話である。この家は格式のある門構えがある一方、場所によっては廃墟のようでもあるが、それを含めて、中庭を中心とした建築形式にひとつの世界観が宿っている。中庭形式の民家を再利用した空間をアトリエとして使用することにした人形作家は、ここを単なる貸室として利用するだけでなく、自身の作品思想の一部として昇華させていることが高く評価できる。場所のイメージが、展示されている人形作家の作品はもちろん、部屋のしつらえや各種道具類とつながっていて、建築や都市が単なる道具ではないことをよく示している。この中庭が環濠集落の中にあり、またその環濠集落が奈良盆地の中にあるという地理学的関係も、このような世界観を構築する上で一役買っているだろう。

優秀賞 「ゲストハウス三奇楼・三奇楼デッキの下」は、吉野町の中心部に位置し、吉野川河岸と林業拠点地域を眺められる場所にある。高低差のある敷地内には、元料亭だった建築に各時代の増改築の結果が重なり、圧倒的に多様な場所を生み出しているところが魅力である。現在は、宿泊室やバー、屋上テラス、マッサージルームなど、現代を生き抜く機能を柔軟に受け入れ、新築の建築では得られない存在感を放っている。

優秀賞 新築の応募作品が少ない中、「三宅町交流まちづくりセンターMiiMo」は、多様な地域社会活動の受け皿として機能する建築が、現代的な空間を備えている事例として魅力的である。まちづくり系の施設は、機能的ではあるが特徴のない部屋の集合体となりがちである。この建築の大屋根と大階段は、広場と町役場を含めた敷地全体を統合する特徴的なイメージを保ちながら、そこに付随する飲食や図書室、児童館、それらのバックヤード等の各種機能が程よく連動していて、人々の日常生活を支える町の中心にふさわしい場所となっている。

奨励賞 「コミュニティースペースハッピー」は古墳の池の上に建つ元美容室を、個人が改造して様々なイベントを催している場所である。アットホームな運営体制と空間のイメージに一貫性があり、場所の特異性と個人運営の強みを十分に生かした共用空間となっている。

奨励賞 「奈良カエデの郷ひらら」は、NPO法人によって、1935年に建てられた魅力的な小学校校舎を新しい交流施設として再生した施設である。カフェスタジオを始め、様々な機能が提案され、寄贈された3000本のカエデ林の存在も、その木造校舎のたたずまいに花を添えている。校舎の規模が大きいことを利用して、地元だけでなく外部利用者を視野に入れた運営内容も特徴のひとつとなっている。

奨励賞 「doors yamazoe」の窓つき回転扉は、きわめて現代的で洗練された空間演出装置である。奈良県の山中に伝統的な日本家屋がある風景も好ましいが、それだけでは地域の未来を語る上で面白くないともいえるだろう。このような現代的造形と穏やかな地域の風景との対比が、新しい場所の可能性を感じさせてくれるのではないだろうか。

最後になったが、この審査期間中、ロシアのウクライナ侵攻は続いていた。私たちが建築や都市を契機とした人々の活動について、また社会生活の豊かさの可能性について議論している時に、ウクライナでは建築や都市が破壊され、人々は次々と日常生活を奪われ、命までも奪われていた。私たちは、『場』について提案したり議論したりする機会を、これまで以上に大切にしていこうと感じたことを付け加えておきたい。

審査委員長 長坂大